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【病理画像のがんらしさを評価する情報密度法の実用化と事業化で】
情報工学科の金道教授が「第39回北國がん基金」と「ISICOスタートアップ創出支援事業」に採択

2025/8/22 NEW

「病理画像のがんらしさと正常らしさを情報量で評価する情報密度法の実用化」と「病理診断医の負荷を低減する、がんらしさを提示する診断支援サービスの事業化」で、情報理威廉希尔中文网站 情報工学科の金道 敏樹 教授が「第39回北國がん基金」と「ISICOスタートアップ創出支援事業」という2件の助成事業で助成対象者に選ばれました。

「第39回北國がん基金」と「ISICOスタートアップ創出支援事業」で助成対象者に選ばれた金道教授

「北國がん基金」採択研究テーマ

金道教授は「病理画像のがんらしさと正常らしさを情報量で評価する情報密度法の実用化の研究」で、「第39回北國がん基金」助成対象者(研究活動助成部門)に2025年6月、選ばれました。助成金贈呈式は9月27日(土)に金沢市アートホールで執り行われます。

(研究の背景と目的)

本研究の背景には、国内外で深刻化する病理医不足があり、それを補う自動画像診断や診断支援技術の必要性が高まっている現状があります。こうした中、人工知能(AI)を活用した画像診断技術の研究が進展しており、その契機となったのが国際コンペ「CAMELYON16」です。以降、医療分野でのAI応用が活発になり、病理専門医が引いたがんと正常組織の境界線をAIで再現する取り組みが進んでいます。最近では、専門医と同等、あるいはそれ以上の診断精度を示す成果も報告されています。

一方で、AIが「なぜその診断を下したのか」という根拠を説明する能力は、依然として大きな課題です。さらに、従来の自動診断技術は新しい症例への柔軟な対応が難しく、次世代の病理医の育成にも悪影響を及ぼす懸念があります。これらの問題は、「境界線を先に引き、後から根拠を求める」という従来の技術思想に起因していると私たちは考えます。

人命に関わるものである以上、「根拠がまずあり、その結果として診断が導かれる」という方向性が医療技術の本来あるべき姿だと考えています。こうした考えに基づき、本研究では以下のような目的を掲げています。

まず、工学的な目的としては、「判断根拠から積み上げる病理画像診断技術」の実現を目指しています。具体的には、性質の明らかな画像特徴量が「がん」と「正常」をどれほど識別できるかという情報量に注目し、カルバック?ライブラー情報量(Kullback–Leibler divergence)の第2項の符号を反転させて得られる「識別情報量」を判断根拠の強さと見なします。病理画像の各小領域に含まれる特徴量の情報量を合計することで、その領域が「がんらしい」または「正常らしい」とされる根拠を定量化できるようにします。この手法を「情報密度法」と名付け、CAMELYON16のデータや金沢医科大学の臨床データに適用することで、その有効性を示しています。

次に、医学的な目的としては、診断の最終責任は病理医が担うことを前提にしつつも、診断に時間がかかりやすい若手医師や研修医に対し、がんの疑いがある領域をAIがスクリーニングして提示することで、時間的?精神的負担を軽減する支援システムの構築を目指しています。このような技術は、特に病理医が不足する地域医療の現場において、大きな効果を発揮すると確信しています。さらに、診断の容易さに応じて典型的な領域と境界領域を適切に提示することで、大学での講義や実習にも活用可能です。これにより、医学生の病理診断スキルの効果的な習得を支援する、医学教育支援システムとしての発展も視野に入れています。

「ISICOスタートアップ創出支援事業」採択テーマ

ISICO(石川県産業創出支援機構)では、大学の研究シーズの活用等を通じて、飛躍的に成長するビジネスを生み出し、将来的に石川県の経済をけん引することが期待されるスタートアップ等に対し、革新的な技術の確立?事業化?社会実装に向けた取組等を支援する「スタートアップ創出支援事業」を実施しています。
2025年8月8日に令和7年度の採択決定者の発表があり、「病理診断医の負荷を低減する、がんらしさを提示する診断支援サービス」を提案した金道教授が選ばれました。

金道教授の提案は、病理医不足と病理診断数増加という二重苦を、がんらしさを提示する診断支援サービスによって病理診断医の負荷を低減することを目的とするものです。特に診断負荷の高い『がんではない』診断に要する時間を半減することを目標としています。
コア技術として、日本医用画像工学会2022年度最優秀論文賞/田中栄一記念賞を受賞した金道敏樹教授と金沢医科大学山田壮亮教授による情報密度法(VOID)(特許第7627023号(P7627023))を用い、 医療診断支援サービスの事業化に取り組みます。※

診断支援システムの出力画面のイメージ

※コア技術として事業化に取組む日本医用画像工学会2022年度最優秀論文賞/田中栄一記念賞

受賞論文について
/kitnews/2023/0731_kindo.html

【金道教授のコメント】

前職のトヨタ自動車では、事故のない世界の実現を目指して、2004年9月に自動運転研究を発起者として立ち上げ、2013年のCES(コンシューマ?エレクトロニクス?ショー@ラスベガス)に、自動車会社として世界で初めて自動運転試作車を出展。今日の自動車メーカーが鎬を削る自動運転開発競争へと至る流れを決定づけたと自負しています。

また2015年には、国土交通省が主催した安倍首相(当時)に対するデモンストレーションの準備段階で、東京の皇居一周を世界で初めて自動走行するなどの技術成果を上げてきました。

現在、金沢工業大学で医学系のテーマに取り組んでいるのは、「人の命を預かるくらいの技術にこそ、やりがいを感じる」からです。

アカデミアの中から論文を通じて技術の可能性を示してきましたが、やはりそれだけでは世の中を変えることはできません。自動運転で世界を動かせたのは、人を乗せて動く自動運転車を作り、実際に公道を走ってみせたからだと、あらためて思います。多くの人、医師と患者の両方を助けたいならば、世界の片隅で理屈を捏ねるだけでなく、モノを作り、具体的に病理診断医を支援できることを、ビジネスベースで実証?展開するしかないと覚悟を決めました。

(関連ページ)

ISICO スタートアップ創出支援事業について

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